No.047 - ~ コンピュータがひもとく歴史の世界 ~デジタル・ヒューマニティーズってなに? 第38回人文機構シンポジウムについて

~ コンピュータがひもとく歴史の世界 ~デジタル・ヒューマニティーズってなに? 第38回人文機構シンポジウムについて

 

 

人間文化研究機構理事 岸上伸啓

 

 近年の情報通信技術(ICT)と人工知能(AI)の発展は、生き馬の目を抜くような早さです。このICTとAIの発達は、最先端の科学技術の開発とは直接関係のない学問分野と考えられてきた人文学にも大きな影響を及ぼしはじめました。
 人文学とは、人間の活動とその所産、つまり人間文化を研究する学問であり、「人間とは何か」や社会のあり方を問うものです。人文学には、哲学、倫理学、歴史学、文学、芸術学、地理学、文化人類学、考古学などがあります。これらの分野の研究者も調査・研究にICTやAI、コンピュータを積極的に利用するようになりました。

 

シンポジウムの趣旨を説明する岸上理事

 

 

 人間文化研究機構を構成する6機関は、膨大な量の文化資源や関連情報を保有しており、それらを整理・調査・電子化し、データベースとして公開するとともに、それらを元に最新のICTやAIを利用した異分野融合型の共同研究を行っています。たとえば、国文学研究資料館人工知能(AI)を利用して古文書のくずし字を読むシステムの開発研究などの例が挙げられます。今回、人間文化研究機は人文機構シンポジウムを開催し、コンピュータやAIを活用する人文学、デジタル・ヒューマニティを紹介し、その可能性と限界について検討しました。
 国立歴史民俗博物館の後藤真氏は、歴史研究の事例として日本古代の法律の施行規則である『延喜式』のデジタルデータ化とそれを利用した分析や、AIを利用した古文書の現代文字への表記変換などについて報告しました。国立国語学研究所の朝日祥之氏は、日系ハワイ移民2世の比嘉太郎氏が収集した写真資料についてAIを利用して、シーンや場所、モノ、時代などに関するキーワードを引き出すことや画像のカラー化を行うことによって、これまでできなかった分析ができるようになった研究例を紹介しました。この2人の講演に対して、人文学オープンデータ共同利用センターの北本朝展氏は情報科学の立場から、NHKの霜山文雄氏は白黒映像をカラー化した経験から、くさかきゅうはち氏は元ウイキペディア管理者としての体験からコメントをした上で、総合討論を行いました。

 

総合討論の様子

 

 

 今回のシンポジウムでは、次のような点が強調されました。コンピュータやAIの発達により、大量の文書資料や画像資料を処理し、それらから引き出された情報を分類・分析したり、新たな情報を発見したりすることができるようになり、人文学の新たな展開を生み出しました。その一方で、AIが情報を整理し、分析の可能性を提示してくれても、最終的に何が妥当かを文脈に即して解釈し、判断を下すのは人間しかできません。AIは人間の代替物とはなりえません。また、人間社会におけるAIなどの科学技術の利用のあり方を考察し、指針を与える倫理学などの人文学の役割が、科学技術が急激に発展する時代においてますます重要になってきています。つまり、コンピュータやAIの活用は人文学の発展に貢献する一方で、人文学(知)はそれらの先端的科学技術を人間社会において利用するうえでの指針となる知見を提供すると考えます。
 参加者からは、「コメンテーター3名が専門家の視点から一般市民向けに話を展開したことで、どんどん引き込まれた」「人間のさらなる活躍と展開に期待が持てた」「人文学研究のこのような発展に大変感激した」等の感想が寄せられ、最先端の人文学に対する一般市民の興味を効果的に引き出すシンポジウムとなりました。

 

 

(参考)
第38回人文機構シンポジウム「~ コンピュータがひもとく歴史の世界 ~デジタル・ヒューマニティーズってなに?」
開催日時:2020年1月25日(土) 13:00~16:30
開催場所:日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール

 

シンポジウムには多数の参加者が詰めかけ、興味深い講演に耳を傾けました