vol.53 - 人文知コミュニケーターにインタビュー!大石侑香(おおいし ゆか)さん

人文知コミュニケーターにインタビュー!大石侑香(おおいし ゆか)さん

 

 人間文化研究機構(以下、人文機構)は、人と人との共生、自然と人間の調和をめざし、さまざまな角度から人間文化を研究しています。人間文化の研究を深めるうえで、社会と研究現場とのやり取りを重ねていくことが何よりも重要だと考えています。

 そこで人文機構では、一般の方々に向けたさまざまな研究交流イベントを開催しているほか、社会と研究者の「双方向コミュニケーション」を目指す人文知コミュニケーターの育成をおこなっています。

人文知コミュニケーターとはどのような人物か?どういった活動を展開しているのか?をシリーズにてお伝えしています。

 第6回目は、2018年9月から人文知コミュニケーターとして、人間文化研究機構・国立民族学博物館に着任された大石侑香さんです。これまでの活動を振り返っていただきつつ、人文知コミュニケーターのようなアウトリーチ活動を行う上でのアドバイスをいただきました。

 

大石さんは人文知コミュニケーターであると同時にシベリアを研究する文化人類学の研究者でもありますね。まずは、大石さんのご専門について教えていただけますか。

 自然と人のかかわりあいに関心があります。寒冷な地域が好きで、西シベリアに滞在し、先住民を対象にトナカイ牧畜や漁撈、狩猟採集といった生業のあり方について調査してきました。

これまで最も印象に残っている人文知コミュニケーターとしての活動とその理由を教えていただけますか。

 印象は、悪い意味で残っていることがほとんどです。活動するたびに反省しています。人文知コミュニケーターとして民博では一般向けワークショップや講演をしてきました。とりわけ反省したのは、昨年(2019年)の夏に民博で行ったワークショップ「だれのぼうし?どんなぼうし?」(写真1)です。これは、私が帽子について短い講義をしたあと、民博の研究者から借りた帽子を観察・触察しつつ、各人が紙や不織布などを利用して自由に帽子をつくるというものです。アンケートによると、参加者の多くは楽しんでくれたようでしたので、ワークショップ自体が失敗したのではありません。

 

 

(写真1)だれのぼうし?どんなぼうし?のワークショップ(2019年8月国立民族学博物館)

 

 民博において私は博物館社会連携事業を検討するワーキンググループのメンバーとして活動してきました。ワーキンググループは、企画課の職員2名と私を含めた研究者2名で構成されおり、仕事のひとつに館外で行うアウトリーチ用のワークショップの開発があります。この帽子の企画はそのひとつで、写真2は民博館内で試行したときのものです。

 企画にあたって、まずは過去に民博で行われたワークショップの報告書を研究しました。報告書の中から、評判がとても良かった帽子を作るワークショップを選び、これを基にしたものを作ろうと決めました。民博の研究者からそれぞれの研究対象地域の帽子とその説明文、現地で実際に使用している様子が分かる写真を提供していただき、持ち運べる簡易な展示を作成しました。帽子の試作を作って必要な材料の検討を行い、本館展示の帽子の標本を調べて見学案内できるようにしました。

 私は、ワークショップの最初に行う導入講義を担当しました。これが非常に難しく、上手くいかなかったと反省した部分です。参加者募集時には対象を制限しませんでしたので、当日は3歳くらいの未就学児からご年配の方も参加してくださいましたが、多くは小学高低・中学年でした。講義では、帽子の素材や形状の多様性、機能、象徴性、装飾性などについて話しましたが、話の内容が子供には難しかった・長かったという意見がありました。私は主たる参加者である子供でも理解できるよう、なるべく簡単に、分かりやすい内容にし、情報を詰め込み過ぎず、短くまとめたつもりでしたが、参加者はそのように感じていないようでした。

 その他のワークショップや大学生向けのスタディ・ツアーにおいても同様の反省を繰り返しました。文化人類学の研究の面白さを伝えるには、詳細な情報や独自の視点の提示が必要ですし、マニアックなほど人文知として興味深いと思います。しかし、あまりに専門的になりすぎると、内容が難しくなりすぎます。活動をとおしてそのバランスが非常に難しいと実感しました。

 

 

(写真2)帽子の試作をする大石(2019年6月国立民族学博物館にて五月女氏撮影)

 

国立民族学博物館への来館者が見学時に使用できる、みんぱくワークシートの開発にも携わったようですね。今回、新たにどんな工夫が施されたのでしょうか。

 新しいワークシートの開発についても上述のワーキングのメンバーで行いました。まず、既存のワークシートとそれに関する利用者調査報告書や小学校の学習指導要領を研究しました。そのうえで今回は、利用者の使い勝手をより良いものにすることと、これまで民博になかったタイプのワークシートを作ることという2点を主な目標にしました。

 前者はハード面であり、学生たちが見学時に使用するA4のバインダーに挟みやすい大きさ、書きやすい材質、見やすいレイアウトにするという工夫をしました。また、既存のワークシートはサイズやデザインがバラバラでしたが、新ワークシートでは10種の各シートのデザインを統一して、一連のワークシートとして保管し易くしました。さらに、シートをすべて集めたくなるように工夫し、再来館を狙いました。

 後者はソフト面についてです。既存のワークシートは、標本の塗り絵や象形文字を書く作業タイプ、展示場の特定の標本を探しだして説明を読みながら観察する解説タイプ、指示された観察内容を書いたり知識を書いたりする穴埋めタイプ等があります。これらのワークシートもとても面白いものです。しかし、これまでの調査では、解説タイプや穴埋めタイプは、利用者は広い展示場で指示された標本群を見つけることに集中し、じっくりとひとつの標本を観察する時間を持てず、標本がチェックポイントのようになることが珍しくない、ということ分かっていました。また、これらはみな、観察対象の標本があらかじめ選ばれており、穴埋めでは模範解答が用意されているため、学校教員たちが利用し易い一方、学生たちが決められた標本以外に注意を向けにくいという難点がありました。

 そこで今回は、利用者が自分自身の関心と向き合い、主体的に標本を選んで観察したり思考したりすることができるタイプのワークシートを開発することにしました。ワーキンググループでは、こうしたタイプのワークシートを先駆的に制作している国立国際美術館を視察(写真3)し、そのノウハウを勉強しました。そして試作したものが写真4です。情報量が少なく、模範解答もなく、利用者の自由な書き込みを促すつくりになっています。例えば、「これは何?」では、自分の気になる標本を一つだけ選び、それを観察し、スケッチや言葉で詳しく表現します。シートには観察のポイントがいくつか書かれています。このシートの面白いところは、その標本から利用者が考えたこととその自分なりの根拠まで書き込めるところです。モノを客観的に深く観察し、ありったけの情報を引き出したあと、そのときに感じたことや考えたことが記録できるようにしました。これによって、標本に対する自分の見方や意見を整理することができ、見学後の調べ学習に活かすことができます。

 

 

(写真3)国立国際美術館への視察(2019年3月五月女氏撮影)

 

 試作の段階で、主体的作業に馴れていない利用者には難しい、模範解答がないと教員には使いにくい、正しい知識が伝わらないといった批判もいただいています。しかし、事前事後学習や使い方により、さまざまな学習方法の工夫が考えられ、汎用性の高いワークシートだと私は考えています。今後、公開されましたらぜひ活用してみてください。

 

 

(写真4)完成したワークシート

 

最後に大石さんのように人文知コミュニケーターのような活動を取り入れてみたい、はじめてみたいと考える研究者の方にまずはどんなことから始めるのがよいかなどのアドバイスをお願いします。

 上述のように、いろいろと反省してきましたので、それを踏まえて以下の三点を挙げたいと思います。

 第一に、他人の研究やこれまで自分が専門としてこなかったテーマではなく、まずは自分の最新の研究成果の発信をするのがやり易いと思います。上述の帽子のワークショップでは、私は帽子の研究を全くしてこなかったため、非常に事前勉強と準備に苦心しました。自分の負担になりすぎない程度で行え、かつ、モチベーションが上がるテーマを選ぶことをおすすめします。

 第二に、誰に対して研究成果を発信したいか、あるいは誰と人文知コミュニケーションをしたいのか、具体的にイメージすることです。そうすることで、コミュニケーションの手段が見えてくると思います。昨年度には、私は、北極ボードゲームの開発に携わりました。これは北極域研究推進プロジェクト(ArCS)のアウトリーチの一環です。どの分野でもアウトリーチとして一般向けにシンポジウム等を行うと思います。しかし、こうした講演系にはご年配の方々の参加が多く、これから研究を目指す中・高校生や大学生、現在社会を担っている若い世代の参加が少ないと思います。そこで、若者が遊んで学べるボードゲームという形にしました。

 最後に、一緒に活動してくれる他分野や芸術家、民間企業の方などの仲間を見つけることです。一般の社会に研究成果を発信する際、他の分野の方々と一緒に発信することで、自分の研究分野に関心を持っていなかった層とのコミュニケーションが生まれます。また、彼らとの新鮮な対話から新たな研究の可能性につながるかもしれません。さらに、異分野との対談やコラボ企画をすることで、自分の研究分野・技術だけではできないコミュニケーションの手法を得たり、共同研究の可能性も広がっていったりすると思います。

(聞き手:高祖歩美)

 

大石侑香
人間文化研究機構総合情報発信センター研究員(人文知コミュニケーター)
国立民族学博物館 特任助教 
首都大学東京大学院人文科学研究科博士後期課程満期退学。東北大学東北アジア研究センターにて日本学術振興会特別研究員PD。2018年、 博士(社会人類学)学位取得。2018年より現職。研究テーマは、北極環境変化と人間社会、シベリアの生業文化、毛皮の文化。