あいさつ

 
 
大阪大学理事・副学長
鈴木 直
 

 大阪大学の理事・副学長をしております鈴木直です。本日の講演会・シンポジウム「歩く人文学―人文学と社会の新しい関係」は、人間文化研究機構と私ども大阪大学が協力して主催させていただきます。

 私は少し前まで、大阪大学の基礎工学部基礎工学研究科というところで教育研究に携わっておりました。私自身の専門は物理学で、いちおう科学者の末席を汚しております。

 自分がなぜ科学者になったか、なぜ科学者を目指したかを考えますと、やはり幼いときから自然に触れ、自然を観察して「なぜだろう」と問いかけたことが発端かと思います。

 「宇宙の果てはどうなっているのか」という問いかけは、「人はどこから来たのか」とか、「人はなぜ死ぬのか」といった哲学的な問いかけと同じものです。また、科学するということは、楽しいときには歌いたくなる音楽などと同じで、人間が本来持っている本能の一つと言っていいでしょう。科学することは単に科学者だけのものではなく、文系、理系を問わず、すべての人間が持っている共通のものと私自身は考えています。そして、芸術などと同じく、人の心を豊かにしてくれるものと信じております。

 その一方で、技術という言葉の響きには、何とな-精神的な豊かさよ-も物質的な豊かさが強調されているように思えてなりません。これに関して、私の所属しておりました基礎工学部基礎工学研究科には、「科学と技術の融合」という創設理念があります。この創設理念は、阪大の学長を務めたあとに、基礎工の学部長を務められた正田健次郎先生が言われた言葉です。一般的には簡単に「科学と技術の融合」といわれていますが、正式には「科学と技術の融合による根本的な科学技術の開発、それに基づく人類の真の文化の創造」といいます。最後の「人類の真の文化の創造」と「科学と技術の融合」という言葉の中には、単に物質的な豊かさではなくて、精神的な豊かさも含んだ真の文化を創造しようという正田健次郎先生の意図が込められていたのではないかと、私自身は勝手に解釈しております。
 独立行政法人化がスタートするに際して、大阪大学は教育目標として、「教養」と「デザインカ」「国際性」という目標を掲げました。この目標を詳しく説明をすることはいたしませんが、突き詰めていえば、単に専門的な知識に詳しいタコツボ的な研究者ではなく、きちんとした社会的な判断力を持って、市民から信頼されるような研究者、あるいは市民から信頼される人材、そういったものを大阪大学からどんどんと輩出していきたいという思いが込められています。加えて、国際的に活躍できる人材を輩出していきたい。そういう思いで、「教養」「デザインカ」「国際性」という目標を掲げさせていただきました。
 社会的な判断力を持ち、市民から信頼される人材、そのためには何がいちばん大切かといえば、市民あるいは非専門家ときちんとコミュニケーションできる資質を備えることでしょう。そのように考え、二〇〇五年四月から大阪大学ではコミュニケーションデザイン・センターなるものを設置して、そういった方向に向けての教育を充実させていきたいと考えているところです。
 今回のシンポジウムは、人文学と社会の新しい関わり、学問と社会の新しい関わり、ということがテーマですから、大阪大学にとっても非常にタイムリーでございますし、主催を一緒にさせていただくことは大変うれしいことでございます。
 法人化に伴いまして、大学では産学連携の重要性がうたわれてお-、大学で生み出された科学技術の成果を、産学連携という形で社会に還元することが強調されております。どちらかというと、これも先ほど申しました物質的な豊かさにつながるように思えますが、その一方で、広-人文系、社会科学系の学問の成果も含めて、社会に還元していくことが大切だろうと私たちは考えております。
産学連携、社学連携、そういったものを通じて、真に豊かな社会を築いてい-ためにはどうすればよいか。このシンポジウムによってそういった方向に向けて一歩でも先に進めることを願いまして、私のごあいさつとさせていただきます。