vol.014 - アジアにおける新しいアジア研究

「アジアにおける新しいアジア研究」

                                                                                                 

ハーバード大学イエンチン研究所では、毎年、アジア地域研究の研究者らを招いてアジア地域の重要性について検討するラウンドテーブルを開催している。2017年3月22日に第7回会議が「アジアにおけるアジア研究」と題し、ハーバード大学ツァイ講堂で開催され、日本、韓国、中国の4名の研究者が意見を述べた。日本からは平野健一郎氏(東京大学・早稲田大学名誉教授、東洋文庫常務理事)が「日本におけるアジア研究の現状」と題する講演を行い、この中で、人間文化研究機構(人文機構)の地域研究プログラムについて言及した。

平野氏は、日本国内で地域研究が再び注目されている状況について、21世紀になってアジアの人々の国境を越えた往来が活発化し、一般の人々がアジア諸国の社会や文化を理解するための説明を専門家らに求め始めたと説明し、日本人がアジア研究の必要性と重要性をより強く認識しているためと述べた。

そして平野氏は、その具体例として、人文機構の地域研究プログラムに触れ、次のように紹介した。人文機構の地域研究プロジェクトは、2006年にイスラーム地域研究で始まり、中国地域、インド地域を取り上げたあと、現在はアジアの3つの主要地域(北東アジア、近代中東、南アジア)を対象にしている。このプログラムは、人文機構がそれぞれの地域研究に取り組むいくつかの大学等研究機関を研究ネットワークとして組織している点に特徴があり、各ネットワークに追加の研究資金援助と若手研究者育成の支援をしている。

この人文機構のプログラムについて、平野氏は、アジア各地域を全体として取り上げている点、これらの地域の人々と平和的関係を構築するために日本の人々が正確で沈着冷静な知識を要求していることに、研究者たちが丁寧に対応している点などを評価した上で、国立の大地域研究所を1つ設置するよりも望ましいものであったと評価した。

その上で平野氏は、これまでの日本のアジア研究には日本研究が含まれず、日本とアジア諸国の比較研究や総合的な研究がなされてこなかったことを問題点として挙げた。また、地域研究を一国研究として行うのではなく、人文機構のプログラムのように広域でとらえる必要があると指摘した。日本のアジア研究者が、空間的、歴史的な広がりをもたせたアジア研究に取り組むことで、日本が他のアジア諸国と同じ運命に遭遇しながら、異なる道筋を歩んだのはなぜかを説明できるからである。そして、近年、日本で大学院教育を受けた中国、台湾、韓国などアジア諸国の研究者が、日本の教育機関に残り、日本の研究者らと協力して総合的研究を実施していることを指摘して、彼らが日本のアジア研究において積極的な役割を果たすことが期待できるとした。

人々の国境を越えた交流が活性化し、アジアの多様な人々が共存する生活空間が増大している今日、どのように人々のあいだの類似性と相違性を理解し、調整していくのか、その一助としての「アジアにおける新しいアジア研究」が求められている。平野氏は、「アジア研究を行うのは、結局、アジアに暮らす一般の人々の平和と幸福のためなのである」と講演を締め括った。

平野氏の講演は以下のサイトから視聴できる。

https://www.youtube.com/watch?v=nn2n3Z97Oic

 

人間文化研究機構 総合情報発信センター研究員 

菊池百里子