vol.017 - 国際シンポジウム2017 北東アジア-胎動期の諸相

国際シンポジウム2017「北東アジア-胎動期の諸相」

 

人間文化研究機構基幹研究プロジェクト 北東アジア地域研究

島根県立大学北東アジア地域研究センター拠点

代表 井上 厚史

 

 2017年9月19日、20日の2日間にわたって、島根県立大学NEARセンター拠点プロジェクト第2回国際シンポジウム2017「北東アジア-胎動期の諸相」を、中国東北師範大学歴史文化学院(吉林省長春市)にて開催した。昨年の11月19日、20日に開催された第1回国際シシンポジウム2016「北東アジア:胚胎期の諸相」では、「北東アジア地域」を歴史的にどう捉えるのか、そしてそこにはどういう課題が存在しているのかについて改めて確認した。この結果を受けて、今年度のシンポジウムでは、北東アジア各国で近代的な思想的・政治的空間の形成が開始される、その「胎動」の諸相を把握することに照準を当てたものであった。

 シンポジウム開催に当たっては、本学NEARセンターと長年の友好関係にある中国東北師範大学東亜文明研究中心との共同開催となっただけでなく、NIHU北東アジア地域研究推進事業の開始にあたって2016年6月に設置されたリエゾン・オフィスを活用しての開催となり、NIHU共同研究事業が日中学術交流において大きな役割を果たしていることを実感するものであった。

 シンポジウムのセッションおよび発表者は、以下の通りである。

 第一セッション「認識:他者認識としてのアジア」:S.チョローン(モンゴル科学アカデミー教授)「東方に対するネルチンスク条約における「モンゴル」問題─占拠と解決」、唐艶鳳(東北師範大学講師)「17〜18世紀におけるロシア人の中国観」、澤井啓一(恵泉女子学園大学名誉教授)「儒教共栄圏の幻影─十七・十八世紀東アジアの「ジャポニスム」」、黒住真(東京大学名誉教授)「北東アジアにおける日本の「霊性」と近代」

 第二セッション「統治理念」:佐々木史郎(アイヌ文化博物(仮称)館設立準備室主幹)「清朝のアムール支配の統治理念とその実像」、ソドビリグ(内モンゴル大学教授)「清朝の辺境統治理念の転換:禁墾から開墾へ」、韓東育(東北師範大学教授)「清朝による「非漢世界」に対する「大中華」表示:<大義覚迷録>から<清帝遜位詔書>まで」、庄声(東北師範大学准教授)「清代統治領域の地形の特徴と災害救助政策:東北南海琿春河流域を中心に」、眞壁仁(北海道大学教授)「江戸儒学界における清朝の領域統治をめぐる評価」

 第三セッション「交流:“人と物”」:森永貴子(立命館大学教授)「ロシアと清の茶貿易─モスクワ、キャフタ、漢口の商人の視点から」、中村篤志(山形大学准教授)「清朝治下モンゴルの駅站網と人的移動」、波平恒男(琉球大学教授)「琉球人の近代西洋との最初の出会い─バジル・ホール著『朝鮮・琉球航海記』(1818)を中心に」、石田徹(島根県立大学准教授)「近世対馬における異国船来着とその対応─対馬宗家文書から考える「北東アジア」」

 総合討論:小長谷有紀(人間文化研究機構)、韓東育、劉暁東(東北師範大学教授)、黒住真、張寅性(韓国ソウル大学)、黃克武(台湾中央研究院近代史研究所)

 全部で13本の先端的な報告および白熱した総合討論を通じて、以下のことを明らかにすることができた。北東アジアにおける近代的空間形成の「胎動期」において、

①中国の華夷変態(明清交代)が引き起こした朝鮮や日本における華夷意識の逆転、すなわち朝鮮や日本こそが「華」であるという近代的なナショナリズムが形成され始めた。

②活発な人や物さらに貨幣(=資本)の移動が、北東アジア諸国に「自国の利益」すなわち自国、他国の領土という意識「自国の利益」=領土意識を芽生えさせ、次第に国家に対する意識を高めることとなった。

③上記2点のこうした動き=胎動は、要するに「発見の時代」から「帝国主義の時代」へという世界史的な近代的空間形成の動きと軌を一にするものである。世界の変動と同時に、北東アジア地域においてもまさに近代的空間形成が「胎動」していた。

 なお、2日間にわたって同時通訳付きのブースで国際シンポジウムを開催できたのは、東北師範大学東亜文明研究中心の全面的支援によるものである。来年度以降もこうした海外研究機関との連携を深めながら充実した国際シンポジウムを開催していきたい、と思えるような大変有意義な学術会議であった。

 

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シンポジウムの様子