No.027 - そうだ人文機構、行こう - 外来研究員ジョー・マッカラムさんの場合

そうだ人文機構、行こう - 外来研究員ジョー・マッカラムさんの場合

人間文化研究機構(人文機構)では、2007年に英国の助成機関である、芸術・人文リサーチ・カウンシル(AHRC)と覚書を締結し、日本研究を志す英国の大学院生や若手研究者を本機構の研究機関で受入れて、研究指導を行っています。今回は、2016年に国際日本文化研究センター(日文研)で受け入れたジョー・マッカラムさんに、ご自身の研究活動や外来研究員としてのご経験についてお話を伺いました。マッカラムさんは現在、オーストラリアのクイーンズランド大学木質構造未来センター(Centre for Future Timber Structures, University of Queensland)の博士課程に在籍しています。

 

現在の研究課題や取り組んでいるプロジェクトはどのようなものですか?

私は、建築家や籠作家としての教育や指導を受けてきたため、工芸と自然の関係、特に編み込みや自然がつぐむ構造(対称図形や螺旋、六角形、分岐など)で見られる共通のパターンや造形に関心を持っています。伝統工芸や設計の技術とともに、フィルムや写真、3Dモデリングも併せて使用しています。そして、現在、籠細工と生物学的な構造や形態の成長の共通点について研究しています。

自然のつぐむ構造と、日本の竹の編み込み技法やその伝統を比べてみると、新たな物理的、デジタル的な建築方法が見えてきます。坂茂氏が設計したフランスのラ・セーヌ・ミュージカル(La Seine Musicale)のような、木材を組み上げた大きな構造物を想像してみてください。私はこういった建築物に用いられる技術やパターン、造形を収集して、記録して、言葉として書き起こしています(パターン生成言語)。

 

この研究分野に関心を持ったきっかけは何ですか?

2011年に結婚式に参列するためにサンフランシスコを訪れたのがきっかけです。この時、数日間、市内の博物館やギャラリーを探索する機会に恵まれました。そして、デ・ヤング美術館(de Young Museum)で新しい方向性を見つけたのです。それはとても感動的な経験でした。

複雑で、多様にうねる曲線の影が壁に映っているのが目に入りました。そして角を曲がると、本田聖流(ほんだしょうりゅう)作の「オーロラ」(2006年、材質:真竹、籐)が目に飛び込んできたのです。 私はすぐにこの作品を、その用いている技法を建築のモデリングという点で観察しました。

デ・ヤング美術館から、アジア美術館に行き、そこでコッツェン・コレクションを見ました。コッツェン・コレクションは、慈善家のロイド・コッツェン(Lloyd Cotsen、1929 – 2017)氏がアジア美術館に寄贈した、バスケットや彫刻造形物のコレクションです。私は英国に戻り、日本の竹工芸を研究し始め、また籠製作に関する国家資格を2年間で取得しました。

 

5年後、そして10年後、あなたは何をしていると思いますか?

博士課程を修了し、私の実務研究や日本の竹工芸の作品に関する調査をもとにした本の出版に取り組んでいたいと思っています。こういった、特異な分野の工芸家は、膨大な知識と高い技能をもっています。しかし、多くの実学がそうであるように、その知識や技能が次世代へ伝承されないまま途絶えてしまっています。私の研究や活動を通して、英国とオーストラリアの両方でこういった竹工芸の知名度を高めていきたいと思っています。

そして、長期的に協力していきたいと思っている多くの工芸家や団体があります。ですから、現在、研究者や建築専攻の学生、竹編職人を一同に集めた、共同プロジェクトを実施するための助成金を得たいと考えています。

 

外来研究員として日本に滞在し、最も記憶に残った出来事は何でしたか?

難しい質問ですね。外来研究員としての4か月間は、信じられないほどの幸運とチャンスでいっぱいだったからです。京都での生活は、これまで経験したことがないほどの自由なものでした。探検する時間と空間が存分にあったのは、すばらしかったです。

指導教員の山田奨治教授のほか、パトリシア・フィスター教授大石真澄大学院生(当時)など日文研のスタッフの皆さんに全面的に支援していただきました。また、日文研の図書館は大規模で、すばらしいスタッフが常駐しており、こもって多くの本を読みました。セミのセレナーデを聴きながら、小さなアパートの中の机の上でモデルを作り、お好み焼きを食べて過ごすことが日常茶飯事でした。

九州の別府でのフィールド調査では、想像以上の成果が得られました。この調査では、私は3人の工芸家と会う予定でしたが、最終的には17人と会うことができました。とても幸運なことに、米澤二郎氏、大谷健一氏、清水貴之氏ら、3人の非常に寛大な工芸家たちに案内していただき、彼らがもつ専門的な知識をご教示いただきました。さらに、私を自宅やワークショップ、そして彼らのコミュニティーに招待してくださいました。さらに米澤二郎氏は、2016年に東京で開催された日展に招待してくださり、本間秀昭氏をはじめとする多くの偉大な作家たち(人間国宝の生野祥雲斉を父にもつ生野徳三氏)を紹介してくださいました。

「新しい発見にあふれ、豊かなものでした」、という言葉で表現してしまうのはもったいないほど、この滞在は間違いなく、人生の中で最高の時間でした。

 

外国で研究しようとしている学生や若手研究者にアドバイスをお願いします。

IPSへの応募を考えているなら躊躇せず、今すぐに応募の準備を始めましょう。

私はそれほど日本語が堪能ではありませんが、むしろ堪能からほど遠かったのですが、「かごを編む」という行為自体が工芸家の人たちと交わる上での「共通のことば」でした。たとえ、日本語がうまく話せなくても、応募をあきらめないでください。あなた自身が相手と意思疎通できる「ことば」を探してみてください。とはいえ、日文研の図書館では、多くの珍しい英語の本を見つけましたし、日文研の図書館は最高でした。

出発前に、積極的にできるだけ多くの紹介状(きちんとした翻訳をつけて)を準備しておきましょう。オープンになって、たくさんの人と話し、あきらめず、Google翻訳を必要に応じて活用してください。思わぬ出会いが、あなたの活動に関心を示す人に導いてくれたり、あなたを他の人に紹介してくれたりするでしょう。そしてあっという間に、日本があなたの懐に飛び込んでくると思います。

日本滞在中の計画は細かく立てましょう。有効なビザがあることを確認したうえで、さらに英国の日本大使館でも確認しましょう。JRが旅行客用に販売しているJapan Rail Passを予算内で、できるだけ長期に使えるものを買いましょう。日本での下宿先は、早めに予約しましょう。日文研の宿泊施設の使用料は非常に合理的な価格ですので、節約してAHRCから支給される奨学金を調査費用に回しましょう。荷物はできるだけ軽くするのがいいと思います(日本で新しい本に出会うからです)。日本の郵便局から荷物を送るのは簡単で手頃なので、研究資料や書籍、物、道具など買って帰りましょう。写真を撮って、毎日、あなたの滞在の様子を記録するのがいいと思います。

そして、日本に到着したら、細かいことはすべて忘れて、研究に没頭してください。研究という旅に身をゆだねましょう。

 

 

ジョー・マッカラムさん
ジョー・マッカラムさんは、博士課程の大学院生で、異分野融合的な研究を行っている実務家研究者です。英国のロンドンを拠点に活動しています。 2016年後半に、芸術・人文リサーチ・カウンシル(AHRC)の大学院生・若手派遣事業(International Placement Scheme)の外来研究員として京都の国際日本文化研究センター(日文研)に4か月間滞在し活動していました。この間、マッカラムさんは日本の竹工芸における情動と環境の関係を研究し、滞在中に竹工芸家や木工芸家、建築家との幅広いフィールド調査を行いました。

マッカラムさんは、現在、オーストラリアのクイーンズランド大学木質構造未来センターで博士号を取得しようとしています。博士号のための研究は、AHRCが支援する3D3プログラムにて開始しました。マッカラムさんはまた、FoAMのメンバーでもあります。FoAMは、非営利団体で、芸術、科学、自然、そして日常生活が交わる学際的な実験の場です。

マッカラムさんは、2001年、クイーンズランド大学建築学部を優等学位(first class honours)で卒業しまた。また、籠製作の国家職業資格(NVQ)を有しており、それは英国におけるこの種の資格の最後の認定でした。この17年間、マッカラムさんはロンドンで暮らし、勤め、建築、芸術、工芸、政策策定など幅広い分野での経験を積んでいます。

Instagram @thefabricatedframe
Twitter: @fabricatedframe

 

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別府調査 01: 造りかえられた自然環境の探求
デジタル写真のレンダリング ジョー・マッカラム(1975年ジンバブエ生まれ)