No.029 - 第2回AHRC関係者懇談会

第2回AHRC関係者懇談会を開催

 

2018年9月3日(月)の午後に人間文化研究機構の本部会議室で第2回AHRC(英国の助成機関である芸術・人文リサーチ・カウンシル)関係者懇談会を開催しました。話題は、映画の中で描写された都市、東京、現代の神社、芸術祭や近代の日本詩に及びました。

シンガポール国立大学建築学科の助教 Simone Shu-Yeng Chung氏は、博士号取得のために行った研究の一部について、話題を提供しました。博士論文の中では、台湾のホウ・シャオシェン(Hou Hsiao-hsien)監督が映画の中で描いた東京がどれほど実在する都市、東京を忠実に描いたものかを調べたChung氏。題材にしたのは、ホウ・シャオシェン監督の映画「珈琲時光(2003)」で、主人公が東京を舞台にさまざまな場所を訪れながら物語が展開する映画です。

Chung氏は、たとえば、主人公が生活するアパートの部屋の様子を映画のシーンだけを用いて再構成したり、主人が通勤したり、電車で移動したりするシーンに基づいて、東京の地理的な心像を再構成しました。どちらもその全体像は映画の中では、描かれていません。この再構成には、建築家の今和次郎が残したスケッチを参考にしました。手書きのスケッチで農家の台所のように特定の空間が、ある一日の中で経時的にどのように使われるかを、今は著書『今和次郎集〈第5巻〉生活学(ドメス出版 1971)』の中で可視化しています。このようなスケッチのアイディアを取り入れて、再構成した東京の地理的な心像は、山手線が中心になるもので、旅行者の多くが東京という都市を、山手線を中心に把握するのと類似てしていると話しました。

東京女子大学国際英語学科の准教授、Andrew Houwen氏は、博士課程の学生として来日した経験を振り返りました。外来研究員として滞在した3ヶ月間は、学術的な成果だけではなく、現在の研究活動にもつながる芸術的かつ創造的な出会いをもたらしました。博士論文では戦後の日本詩の受容について調査したHouwen氏。来日中、詩人・那珂太郎氏の詩集や那珂氏について書かれたさまざまな資料を収集しました。また、現在の共同研究者の一人である山口大学国際総合科学部の助教、仁平千香子氏と知り合ったのもこの期間でした。滞在中、仁平氏と意気投合し、二人は、那珂氏の詩の英語訳のプロジェクトを立ち上げました。Houwen氏が博士課程を終わらせるためにいったん英国に戻った後も交流は続きました。そして、約5年の時を経てHouwen氏と仁平氏は、2018年の7月にこれまで英訳してきた那珂氏の詩の一部を書籍「Music」(Isobar press, 2018)として発表しました。

懇談会の参加者は、プレゼンテンションで言及された内容をめぐって、観光地の人気が日本人旅行客と外国人旅行客との間では異なること(たとえば、瀬戸内海に浮かぶ直島など)や建築家や芸術家の評価をめぐっては、日本と国外では評価が異なること、伝統的な"神前結婚式"は明治期に形式化され行われるようになったもので歴史が浅いことなど、多岐にわたる話題について意見が交わされ、AHRC関係者の交流が深められました。

2009年以来、人間文化研究機構の6つの機関は、毎年、英国の大学や研究機関に在籍する博士課程の学生や若手研究者を、外来研究員として3〜6ヶ月間受け入れています。この事業は、人間文化研究機構と英国のAHRC(Arts & Humanities Research Council)との連携の一環として行っています(International Placement Scheme; IPS)。これまでに25人以上の外来研究員がこの枠組みを利用して、来日し、データ収集や資料調査、フィールドワークなどを行っています。 AHRC関係者の懇談会は、これまでIPSの枠組みを利用して来日した外来研究員がつながることで、日本研究に興味を持つ学者のネットワークを作り、日本で研究を行う上での情報交換を行うことを目的としています。第1回の懇談会は、2018年2月に開催されました。



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