No.031 - そうだ人文機構、行こう - 外来研究員ハナ・ベイリーさんの場合

そうだ人文機構、行こう - 外来研究員ハナ・ベイリーさんの場合

 

人間文化研究機構(人文機構)では、2007年に英国の助成機関である、芸術・人文リサーチ・カウンシル(AHRC)と覚書を締結し、日本研究を志す英国の大学院生や若手研究者を本機構の研究機関で受入れて、研究指導を行っています。今回は、2014年度に京都の国際日本文化研究センター (日文研)で受け入れたハナ・ベイリーさんに、ご自身の研究活動や外来研究員としてのご経験についてお話を伺いました。ハナさんは現在、英国のキール大学に在籍して、現在、音楽・映画研究の博士論文を執筆しています。

 

現在の研究課題や取り組んでいるプロジェクトはどのようなものですか?

私は、映画音楽や音響、日本のホラー映画、日本文化、アダプテーション論、流用論、映画のリメイクといったテーマに関心があります。博士論文をまとめているところで、日本のホラー映画、俗に「心霊もの」と呼ばれる映画について音楽や音響の役割を新たに概念化しようとしています。また、日本のホラー映画が世界の他の地域のホラー映画、特に日本映画をアメリカでリメイクした作品とどのように異なるのかも検討しています。

 

この研究分野に関心を持ったきっかけは何ですか?

英国の大学で音楽と英文学を専攻していました。最終学年のときに「シェイクスピア作品の映画化」に関するモジュールを受講し、シェイクスピアの悲劇が日本で映画化されていることを知りました。卒業論文では、各国でリメイクされたシェイクスピア映画の音楽について考察し、黒澤明の「蜘蛛巣城」(英題は“Throne of Blood”、『マクベス』翻案)の音楽を担当した佐藤勝、「乱」(英題は“Ran”、『リア王』翻案)の音楽を担当した武満徹の楽譜なども取り上げました。

その後、関心は現代に近い時代の日本の映画音楽に移り、修士論文では日本版「リング」と米国リメイク版「ザ・リング」の映画音楽と音響効果を比較しました。日本のホラー映画の視覚表現については、すでに多くの研究がありますので、私の関心は、こうした映画の音楽・音響表現を分析することや、心霊表現の文化的な差異が音楽や音響によっていかに増幅されるかにありました。こういった経緯が私の博士論文のきっかけとなっています。

 

5年後、そして10年後、あなたは何をしていると思いますか?

高等教育機関で学生に教えていたいと思います。再びフェローシップの機会を得て、今温めているプロジェクトや、日文研へのフェローシップをきっかけに生まれたアイデアを実現できていたらうれしいです。そして、現代日本映画音楽の研究者仲間と共同で本を出版していたいですね。

 

外来研究員として日本に滞在し、最も記憶に残った出来事は何でしたか?

日文研の職員の方々や指導教官の細川周平教授、通訳を手配してくれた京都大学の研究者仲間の力添えで、日本の映画音楽・ゲーム音楽界を代表する3人の作曲家 – 冷水ひとみ、川井憲次、ゲイリー芦屋 – にインタビューすることができました。作曲過程や他の業界の仲間とのコラボレーションについて大変興味深いお話を伺うことができました。

 

海外や異文化での研究を考えている学生・若手研究者にアドバイスをお願いします。

言葉の問題を理由に、応募をあきらめないでください。スタッフや同僚が必ずサポートしてくれます。私の場合は、さまざまな研究の機会を通じて、実用的な日本語を覚えていきました。キール大学で授与された日本語能の資格を持っていたことも役に立ったと思いますが。 学生・若手研究者は、希望している派遣先の研究機関がどのような言語サポートを提供しているか、事前に問い合わせてみると良いでしょう。

派遣先では研究日誌をつけることをお勧めします。私はスーツケースいっぱいの資料を持って英国に戻りました。たくさんあってダンボール数箱分を郵送したほどです! 帰国後、資料の分類には時間がかかりました。ですが、日本の芸術で用いられている心霊表現や恐怖表現を本場で触れることによって、日本映画では音楽・音響表現がどのように形作られたのか、という点について私自身が理解を深められたことを反芻する作業でもありました。

 

ハナ・ベイリーさん
ハナ・ベイリーさんは英国キール大学に在籍して、ニコラス・レイランド教授ニール・アーチャー博士アラステア・ウィリアムズ教授の指導のもとで、音楽・映画研究の博士論文を執筆しています。ベイリーさんの研究は英国芸術・人文リサーチカウンシル (AHRC) の助成を受けています。2014年10月、ベイリーさんはAHRCのフェローシップで、京都の国際日本文化研究センター (人文機構を構成する6つの機関のひとつ)に5カ月間派遣されました。 ベイリーさんの論文“Sound and Techno-Horror: Kairo and Pulse”(音とテクノホラー:「回路」と「パルス」)は、現在査読中です。

ベイリーさんの趣味は、茶道 (茶の湯、茶湯、文字通りには「湯を沸かし、茶を点てること」)です。日本でお茶会に参加したことがきっかけで興味を持ちました。その他の趣味は、映画鑑賞とピアノを教えることです。

Twitter: @bayleyhn

 

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