vol.075 - 人間文化研究機構・味の素食の文化センター共催シンポジウム「アフリカから食の豊かさを考える」

人間文化研究機構・味の素食の文化センター共催シンポジウム「アフリカから食の豊かさを考える」


人間文化研究機構は、味の素食の文化センターとの共催によるシンポジウムを開催しており、今回で5回目を迎えます。今年度は「アフリカから食の豊かさを考える」をテーマに掲げた講演を開催いたしました。また昨年度と同様に、感染症拡大防止の観点から対面での実施ではなく、事前に収録した映像をウェブ上で配信しています。令和3年11月25日に、国立民族学博物館と北海学園大学との両拠点をつないで収録した映像は、令和4年3月1日から人間文化研究機構、味の素食の文化センターのYouTubeチャンネルで公開されています。

さて今回のシンポジウムのプログラムは以下の通りです。

[趣旨説明]
池谷和信氏国立民族学博物館人類文明誌研究部教授)
[講  演]
小松かおり氏北海学園大学人文学部教授)
「中部アフリカ・熱帯雨林の食と「豊かさ」   池谷和信氏
「アフリカの乾燥帯の食と「豊かさ」」
[対談]
ファシリテーター
神野知恵氏(人間文化研究機構 国立民族学博物館 特任研究員、人文知コミュニケーター パネリスト
小松かおり氏、池谷和信氏

まず池谷氏から、急激な人口増加のなかで飢えや貧しさという先入観でとらえられがちなアフリカで、どのような食の文化が営まれたか、湿潤帯の中部アフリカ、乾燥帯の東・南部アフリカという区分なかで、具体的に考えてみたいという趣旨が説明されました。

最初は、小松かおり氏による「中部アフリカ・熱帯雨林の食と「豊かさ」」というテーマで、西部・中部アフリカの農業と食の多様性についての講演がなされました。サブサハラ・アフリカでは、穀物とキャッサバ・ヤムイモ・バナナなどの根栽作物を団子状に調理して主食としています。中部アフリカのカメルーンやコンゴの熱帯雨林地帯では、焼畑移動耕作によって栽培された根栽作物、森林や川で自給される多様な魚・虫・野生動物、野生化した栽培植物であるアブラヤシなどを組み合わせて調理しています。それらの材料の調理法と組みあわせで味に変化をもたせる一方、食材や調味料の組み合わせには、味覚のセットともいうべきこだわりがあります。ここから見られる豊かさとは、特定の主食作物への嗜好性や味覚のセット、「いろいろなものを食べること」という食事内容に関わることに加えて、来客も含めて一つの皿を囲んで食事を分かち合う「共食」という行為の重視です。共食はアフリカに限りませんが、彼らにとっての食の豊かさに「分かち合い」が重要な条件であり、無限に分け合うことが可能な食事の形態であることを小松氏は指摘します。

次の、池谷氏による「アフリカの乾燥帯の食と「豊かさ」」についての講演は、旱魃・飢え・貧しさととらえられがちなアフリカの乾燥帯で、地域の食文化から改めてその「豊かさ」を考え直そうという内容です。まず地域と生業に対応した民族呼称をもつ、ケニアの牧畜民(「ソマリ」)、ザンビアの農耕民(「チェワ」)、ボツワナの狩猟採集民(「サン」)、南アフリカの都市民(「コーサ」)をとりあげ、おのおのの食文化に注目します。たとえば、「ソマリ」は家畜であるラクダのミルクを、「チュワ」は作物のトウモロコシを主な食にしています。「サン」は移動生活のなかで得られる野生の食材から、定住生活に移行するなかで家畜のミルクに依存することになり、農村から都市に移住した「コーサ」はキヨスクで購入したトウモロコシ粉を煮込んで主食とするなど、生業と生活環境に応じた食生活が営まれています。このなかで、都市に移り伝統的な生業から離れた「コーサ」が、日常生活のなかで依然として「共食」という習慣を維持しており、ここに時間と生活条件を越えた食文化の継続性が見られるとの指摘は重要です。アフリカの人口急増、特に発展途上国における都市人口の増加のなかで、アフリカの伝統食が調理の形を変えながら現代社会のなかで生き続け、また「共食」という習慣が社会構造の変化のなかでも維持されているところに、アフリカの食の「豊かさ」の一つの姿を見ることができます。

小松・池谷両氏の講演を踏まえて、神野知恵氏の司会で対談が行われました。やはり討論の中心は食の「豊かさ」と、その条件の一つでもある「共食」です。ただし、地域によっては、支配形態・社会階層・性差や宗教的な規制により、「共食」が制限されたり、複雑な形態をとることもあります。また食の「豊かさ」の象徴ともいえる「私たちの食物」へのこだわりと、地域に根ざした味覚を生み出す調理技術があります。またアフリカ起源のモロコシ・シコクビエ・ヤムイモ・オクラなどと共に、東南アジア起源のバナナ、南米起源のキャッサバなどが積極的に食材に取り入れられ、アフリカの食として根付いて「私たちの食物」を生み出し、これらが「豊かさ」につながる、といった意見が交わされました。

アフリカの食をめぐる今回の講演は、人間らしい食とは何であるか、さらに食材・調理や食の空間などに改めて食の本質を問う重要な端緒となったと思います。

シンポジウムチラシ

文責:人間文化研究機構総合情報発信センター長
永村 眞