No.080 - ヨーゼフ・クライナー氏が第4回日本研究国際賞を受賞

ヨーゼフ・クライナー氏が第4回日本研究国際賞を受賞

このたび、第4回人間文化研究機構日本研究国際賞の受賞者を、ボン大学名誉教授、法政大学国際日本学研究所客員所員のヨーゼフ・クライナー(Josef Kreiner)氏に決定いたしました。クライナー氏は、日本をフィールドとした民族学・民俗学研究の専門家として、また、ヨーロッパ日本研究協会初代会長、ドイツ日本研究所初代所長として、日本研究の国際的発展に多大な貢献をされています(選考委員会の野家啓一委員長がまとめられた「授賞業績・授賞理由」を御参照ください)。本機構では、2023年1月20日に上野の日本学士院にて授賞式と記念講演会を催させていただきます。クライナー氏と交流をさせていただけることは、私たちにとってこのうえない楽しみです。

さて、本機構が一般財団法人クラレ財団の御協力を得て2019年に創設した日本研究国際賞も今回で4回目となりました。お陰をもちまして、国内外から優れた研究者を候補者としてご推薦をいただき、受賞者の選考を滞りなく進めることができております。本賞の趣旨をご理解いただき、御協力くださっている皆様方に、まずは、御礼申し上げたいと思います。選考委員会では、ジェンダー、地域、等々、より多様な研究者を本賞の対象にしたいと考えております。さらなる候補者のご推薦を切にお願いする次第です。

文責:人間文化研究機構理事 若尾政希

 

授賞業績・授賞理由

ヨーゼフ・クライナー氏は長きにわたって文化人類学および日本学の研究に取り組んでこられ、その成果は日本語、英語、ドイツ語を駆使した著作や編著に結実している。氏の研究業績は西南諸島の民族誌、日本学、人類学史の三分野に大別でき、それぞれの領域で草分け的な研究を発表してきた。とりわけ沖縄およびアイヌ文化に関心を寄せ、地域的な差異のない「単一の日本文化」という通念に異を唱えたことは、特筆されるべきである。

クライナー氏の業績はすべて綿密なフィールドワークを踏まえたものであり、奄美諸島での長期間にわたる現地調査に基づく『南西諸島の神観念』(1977年、住谷一彦と共著)は、現在なお引用される古典として南西諸島研究の基礎を築いた作品である。また『世界の沖縄学―沖縄研究50年の歩み』(2012年)は、人類学の研究史のなかで沖縄をいかに位置づけるかをまとめたものであり、現地調査と文献研究を総合した沖縄理解を目指したものとして注目を集めた。

さらに氏は、西南諸島研究の調査経験を日本全体へと押し広げて研究対象を拡大し、ウィーン大学に提出した教授資格取得論文「日本の村落の祭祀組織」(1968年)は、内外の研究を踏まえた新しい視点での日本研究として高い評価を受けた。総じて氏の1960~70年代の研究は、ヨーロッパにおける日本研究に社会人類学的アプローチを導入し、それを方法論として確立したということができる。

もう一つ忘れてはならないのは、クライナー氏のオーガナイザーとしての卓越した能力である。ボン大学在職中は日本文化研究所長、東洋言語研究所長を歴任し、その後1988~1996年にはドイツ日本研究所初代所長として、ヨーロッパの日本研究の拠点形成に尽力した。この時期に特筆すべきは、ヨーロッパの博物館・美術館での日本展示の実現に多大な貢献をしたことである。なかでも2003年にボンで開催された展覧会 The Beauty of Japan — the Soul of Japan ではゲストキュレーターを務め、10万人以上の来場者を迎えた。

最後にクライナー氏は「ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)」の設立に率先して取り組み、1975~1979年には選出による初の会長を務めた。EAJSは日本研究に関する初の国際学会であり、現在50ヵ国にわたる1400人以上の会員を擁している。こうした活動を通じてクライナー氏は各地から集う若手研究者に大きな影響を与え、その多くは後に日本研究の要職に就いている。氏の教育者としての多大な貢献も見逃されるべきではない。

以上、ヨーゼフ・クライナー氏は、学術業績、社会活動、教育実績のいずれの面においても余人の追随を許さない優れた研究者であり、選考委員会は氏を第四回受賞者として選んだことを、ここに喜びとともに報告したい。

 

第4回人間文化研究機構日本研究国際賞授賞式及び記念講演 詳細はこちら

【前回の授賞式・記念講演】

No.077 - 第3回人間文化研究機構日本研究国際賞の授賞式と記念講演