No.101 - 調査研究の現場から @イギリス 東北大学 包 双月(ボウ サラ)さん

調査研究の現場から @イギリス
東北大学 包 双月(ボウ サラ)さん

 

人間文化研究機構では、機構のプロジェクトの推進及び若手研究者の海外における研究の機会(調査研究、国際研究集会等での発表等)を支援することを目的として、基幹研究プロジェクト・共創先導プロジェクトに参画する若手研究者を海外の大学等研究機関及び国際研究集会等に派遣しています。

今回は、イギリスに派遣された東北大学の包双月さんからの報告です。

 東北大学に所属している包 双月(ボウ サラ)です。私は、令和5年7月18日〜9月18日まで、人間文化研究機構(NIHU)の若手研究者海外派遣プログラムにより、イギリスのシェフィールド大学に派遣されました。

 

派遣先の状況や調査の目的

 この派遣は、人間文化研究機構グローバル地域研究事業「東ユーラシア研究プロジェクト」の一部として東北大学東北アジア研究センター拠点が推進する「マイノリティの権利とメディア」事業の一環です。

 今回の派遣プログラムでは、イギリスのシェフィールド市を拠点とし、ヨーク市、ロンドンおよびマンチェスターの中華街において、中華料理店およびその経営のあり方に関する人類学的調査を実施しました。そして、食を手かがりとして、中国系移民の世界的な広がり、およびSNSの活用によって形成されたオンライン・コミュニティ形成の事例により、従来の政治・経済秩序と異なる側面からグローバル化を捉え、中国を中心とする非西洋世界からグローバル化とは何かを再考することが目的でした。

 

通り過ぎる客に店のメニューや料理を紹介する店員さん(ロンドン中華街)

 

今回の派遣を通じて見込まれる研究成果や新たな発見

 まず、戦後のイギリスでは、インド系移民に次いで、中国系、特にイギリスの植民地だった香港からの移民が急増し、各地で飲食業を展開していきました。近年、中国人留学生の増加に伴い、「麻辣」を特徴とする本場の味を提供する、いわゆる「ガチ中華料理店」が急増しています。これは中国の経済発展と地域料理が、中国国内の広がりを背景として、さらに若者の海外への進出に伴って展開されている現象です。このように、中華料理の世界的な広がりは、国内外における人の重層的で頻繁な移動によって形成された現象であることが明らかとなりました。

 

骨を取り分ける店員さん(ロンドン中華街のある中華料理店)

 

 第二に、イギリスでは、中国から経済力のある旺盛な消費意欲を備えた留学生が激増しており、飲食店を中心とした消費ブームが顕著です。その背景としては、イギリスは積極的に留学生を受け入れる制度作りと大学の環境を整備し、留学生による経済活性化を目指しているという状況があります。つまり、中国人留学生の学歴を求めるニーズに合わせて、イギリスは教育を産業化させる戦略を採用しており、互いにwin-winの関係という構図が形成されているのです。

 

中国四川出身のシェフさん(マンチェスター中華街の四川料理店)

 

 第三に、ロンドンやマンチェスターを含む世界各国の中華街は、中国人移民のコミュニティであり、連続的な移民の発生を支えてきました。しかしながら、今日、SNSを活用したオンライン・中国人コミュニティが中国以外の地域で形成されています。具体的には、中国のアプリを活用した情報の発信と獲得、さらにWeChat payを利用して中国元で会計するという経済システムも完備されています。このように、イギリスでは、SNSを媒介としたバーチャルなオンライン中国人社会システムの形成が見られるのです。

 

包 双月(ボウ サラ)
博士(文学)。東北大学大学院 文学研究科助教。
内モンゴル自治区出身。研究テーマは、遊牧から定住農耕化したモンゴル人に関する人類学的研究、越境する中華料理およびエスニック料理の消費と受容に関する研究など。