人間文化研究機構とボン大学の国際シンポジウム「災害と人文学 保存、管理、遺産」

No.115
2025.05.01
2020年12月1日、人間文化研究機構はドイツのボン大学と研究や人材交流に係る包括協定を結びました。コロナ禍を経て、両機関の共催による最初の国際シンポジウム「災害と人文学 保存、管理、遺産」が、2024年9月26日から28日にかけて ボン大学 で開催されました。
シンポジウムの初日は両機関の長であるボン大学のミヒャエル・ホーホ学長と、人間文化研究機構の木部暢子機構長に加えて、デュッセルドルフ日本国総領事館の河原節子総領事の開会挨拶から始まりました。続いて、早稲田大学の縣浩一郎教授の「日本における防災政策」と、国文学研究資料館の渡辺浩一教授の「自然災害の連鎖 火山噴火によって深刻化した江戸の洪水」というタイトルの基調講演がありました。

シンポジウム2日目には、次の3つのセッションが行われました。
セッション1「文化資源の保護」
地震や洪水といった被害を受けた文化資源をどう救い、どう残すのか。この問いからはじまった本セッションでは、日本の保護や保存の事例が数多く紹介されました。
・国立歴史民俗博物館 天野真志准教授「地元の歴史的文化の保護と継承 日本の現状と危機管理の課題」
セッション2「危機とその記録」
本セッションの対象は自然災害に留まらず、戦争といった人災も対象とし、韓国や日本での研究が取り上げられました。
・国際日本文化研究センター エドワード・ボイル准教授「レジリエント・マテリアルズ 遺産の危機からの回復」
・国立歴史民俗博物館 ヨアヒム・アルト特任助教「耐えがたいものに耐える アニメに見る戦後初期」
・ボン大学 ラインハルト・ツェルナー教授「関東大震災の追悼」
セッション3「デジタル・ヒューマニティーズ」
デジタル化をテーマとする本セッションでは、建物や遺跡といった有形の文化資源だけでなく、方言や文字といった無形の文化資源が対象となりました。
・国立国語研究所 横山晶子特任助教「地域コミュニティーの方言の保存 沖永良部の事例」
・国際日本文化研究センター 駒居幸特任助教「距離の探求 日本語と英語の文脈に見る桐野夏生の小説」
・ボン・デジタル・ヒューマニティーズ・センター マティアス・ラング センター長「3D技術による文化遺産の保護」

人文学並びに情報学の発表が中心となったシンポジウム2日目とは異なり、最終日には自然科学の研究者が参加しました。
セッション4「地域の文化と自然」
危機から得る教訓とは。また平時からどういった準備が必要になるのか。セッション4では日本、ドイツ、イタリアでの様々なケース・スタディーだけでなく、日欧の比較研究が登場しました。
・総合地球環境学研究所 吉田丈人客員教授「危機回避と自然からの恩恵の享受のための地域文化」
・ボン大学 ローター・シュロット教授「教訓 危機管理を専門とする高等教育の役割と2021年7月の洪水からの見識」
・トゥヴェンテ大学(オランダ) イレーナ・ペテラローリ ポスト・ドクトラル・フェロー「日欧間の危機の準備と地域コミュニティーのレジリエンス」
セッション5「持続可能性とレジリエンス」
最後のセッション5では「サステイナビリティー」と「レジリエンス」をキーワードに、地球環境に係るインドと日本での研究事例を元に、研究者間の活発な意見交換が実施されました。
・総合地球環境学研究所 パトラ・プラビル教授「大気汚染と気候変動に係る現代農業規範の取り組み」
・国連大学 パオラ・フォンタネッラ プログラム・アソシエイト「地域コミュニティーの危機レジリエンスのための文化遺産と地元の英知 只見ユネスコエコパークでの参加型アプローチ」

各発表者の所属先と役職は2024年9月時点の情報です。
(文責:大場 豪 人間文化研究機構 人間文化研究創発センター研究員)