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vol05/アオサギ、アニメ、そして戦争
研究者のおうち時間①

新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、私たち人文知コミュニケーターは研究者でありながら、生活者でもあるという立場から何ができるかを模索してきました。このウェブサイトは、そうした思いから生まれました。これからも身近な話題からちょっと難しい話まで、人文知コミュニケーターならではの視点で記事を発信していきます。

アオサギ、アニメ、そして戦争
アルト・ヨアヒム 人文知コミュニケーター(人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館)

 2023年10月11日

 皆様、はじめまして。私は1年前、2022年10月1日に国立歴史民俗博物館(歴博)で人文知コミュニケーターに着任したアルト・ヨアヒムです。
 ご挨拶と同様に、今回書きたい文章のテーマは「ちょっぴり」遅れてしまいました。具体的には、鳥のアオサギで繋がった人間の活動について語りたいです。

 そのきっかけとなった事情は二つあります。一つ目は歴博の環境です。歴博は千葉県佐倉市にあり、印旛沼という湖沼に繋がる鹿島川からわずか400メートル、そして印旛沼自体から3キロメートル未満しか離れていません。そして、鳥瞰図から見れば、歴博は印旛沼での河口から鹿島川の右岸に続いている森の一帯の南部の真ん中にあることも分かります。このような環境はアオサギの生息地として最適です。空でのお散歩の距離には印旛沼があり、そこには食料となる魚がいます。そして歴博の周りの森は交通量が少なく、静かで木が素敵な鳥アパートになります。
 その結果、3月上旬から8月下旬までに、何十匹のアオサギが巣を作って、卵を産んで、小鳥が育ちます。そして、「アオサギアパート」の下に通っている歴博への道を白く染めます。

 さて、先述のとおりに、私が歴博に着任したのは10月でした。つまり、初めて歴博に来た時に、アオサギはもう冬季の宿舎に引っ越していました。(私はその時、横浜から東京に引っ越しました。)
 アオサギとの出会いが春に来ました。私の研究室からは「アオサギアパート」が見えるので、頑張って巣を作った親鳥をずっと見守れました。
 そして今年の7月には大きな出来事がありました。それは何かというと、アオサギはムービースターになったのです!それは、今回の話の二つ目のきっかけとなった事情でした。10年ぶりの宮崎駿監督の作品『君たちはどう生きるか』(英語でThe Boy and the Heronですが、「heron」とはまたサギのことです)が発表されました。宮崎駿監督の2013年の引退まで、ほぼ定期的に夏に発表されたジブリアニメの公開は一般的に日本全国で大イベントであると思いますが、私にとっては研究の面でも興味深いです。申し遅れましたが、私は日本アニメに描かれている第二次世界大戦について研究しています。そして、『君たちはどう生きるか』の舞台も、同じく戦時中に設定されています。ただし、色々な条件があるので、結局は私の研究の対象にはなっていません。
 ところが、映画の中には一つの非常に面白かったセリフがありました。ある日、突然に消えた主人公の曽祖父について「彼は勉強しすぎた男でした。」というような発言でした。
 そこでは、アオサギから始まったアニメ映画と歴博、むしろ人文知コミュニケーターとしての私の仕事、との繋がりを感じました。
 人文学とは、我々の社会というものを「人間」にフォーカスしたところから調べて、説明するようにしています。この中には、「人間」を考えず、「文学」だけを勉強すると、せっかく得た知識は人に届かずに、いつの間にまた消えてしまうかもしれません。
 それは、戦争の表象を研究している私にとって、昨年からウクライナで起きている戦争、そして先日にイスラエルで起きたテロ事件は、人間は過去から学んでいないのではないかという、悲しい気持ちに繋がります。『君たちはどう生きるか』にも、こっそりこの問いかけが現れます:
 「他の人の不幸を起こすことで支配者になるなんて、そんなに楽しいですか?」

左:映画館のショップなどで見かける『君たちはどう生きるか』のポスターなどのサギのイラスト(撮影:筆者)
右:歴博のすぐ隣にある姥が池(佐倉城址公園)で2月から9月まで見かけるアオサギ(撮影・ご提供:平野忠志様)

 私は今年の8月末に海外で学会発表があったため、8月の最後の1週間から9月の最初の1週間の途中まで、歴博にいませんでした。その間に、アオサギもまた「引っ越しました」。今は歴博の周りに私の大好きなヒヨドリが増えてきました。独特な鳴き声のヒヨドリも、今度は映画に登場するのかな?

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