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NIHU Magazine

人文知コミュニケーターにインタビュー!NURADI Raditya(ヌラディ ラディティヤ)さん  

No.127
2026.01.13

人文知コミュニケーターに就任された、国立歴史民俗博物館NURADI Raditya(ヌラディ ラディティヤ)さんにインタビューしました。

・日本もしくは日本の宗教や文化との出会い

 アメリカ留学中の2015年ぐらいに初めて日本に来ました。当時、学部にてデジタルアートを勉強し、ちょっと日本の文化に興味があり、1年間の短期交換留学に参加しました。日本の色々なことを勉強して一番不思議だなと思ったのが、日本や欧米の宗教の概念の理解が僕の出身であるインドネシアの理解と違っていたことです。インドネシアだと政府が決めた組織が宗教で、その組織に所属することが宗教です。所属が一番であり、信じるか信じないか、儀礼をやるかやらないかは二の次です。アメリカに2年住み、インドネシアとは全然違う形の宗教と出会いましたが、その時はまだ宗教について考えていませんでした。

 日本に来て初めて宗教を考えるようになったきっかけは、スタジオジブリの映画「もののけ姫」でした。ジブリ映画の分析や考察をしている授業を取って以来、他のジブリ作品を見るようになりました。その中で文化と(宗教と言うよりは)信仰の関係性というか、近い距離の表し方に気付きました。その後は日本の神社やお寺に行きました。簡単に言うと、宗教は必ずしも組織への所属ではないと気づき、その後は少しずつ宗教への興味・関心が高まっていきました。

・研究テーマとその魅力-聖地巡礼

 研究のテーマは修士課程から取り組んでいるテーマです。始めはジブリとの出会いから入っていたので、どちらかと言うと(僕の前任の人文知コミュニケーターである)アルト ヨアヒムさんに近い研究テーマを研究しようと思っていました。ジブリ作品に限らず、アニメ作品の宗教の表現を研究したかったのですが、あまりにも先行研究が多くあります。また、実際の映画の表現の仕方(作り手のメッセージ)と、観客が受ける影響は必ずしも同じではないと気付きました。では現地はどうなんだろうということになりました。実際に現地で起こっている儀礼や行事に関心があり、聖地巡礼という現象があることがわかりました。そちらの研究のほうが面白いのではないかと思い、実際に現地へ行き色々な方々と話をし、そこからは自然に聖地巡礼の方向に進んでいく感じでした。

 研究対象は金沢の湯涌温泉です。毎年10月下旬頃に「湯涌ぼんぼり祭り」が行われていますが、この祭は元々「花咲くいろは」というアニメの中の祭を再現しており、今年(2025年)で12年目になります。ほぼ毎年行われていて、それが基本的に主なフィールドになっています。現地の方々、特に観光協会の方々やアニメファンの方々のお話では、元々は毎年行う祭ではなく、「花咲くいろは」のアニメ放送の終了後の打ち上げ会のような形で行われていたようです。予想よりも来客が多く、しかもファンからの熱い応援があり、ほぼ毎年行われるようになったという事例です。

 この祭の面白さは、運営は地域の方々ではなく、ほぼ全員がボランティアやファンの方々というところです。そのため観光協会を除く地元の方々は、実際の仕事の内容や、いつやる、何をやる、といったことを事前に知りません。勿論、運営以外の形で地元の方々が応援しているのですが、実際の仕事はファンと観光協会というところが面白いと思います。物語の話に戻りますが、地元に根付いた祭としてそのような物語を売るというか、言い方はおかしいのですが、そういうナラティブを少し表に出そうとする動きが出てきています。こういうPRをするようになるのが個人的には面白いなと思っています。

 研究の魅力は、場所と物語性と人です。聖地巡礼はアニメだけに限りません。旅を含む儀礼というのは、必ずしも全部という訳ではありませんが、この3つが密接に関係しています。その3つの要素の中で「旅」という儀礼が生まれたので、場所だけだとちょっと物足りない。物語性だけでもちょっと物足りない。全部が一緒になっていて、人ははじめて「あ、旅に出よう」と思う、というのが、実際に現地に行って沢山の人と話しをしていて気付いたことの一つですね。恐らく皆さんも「聖地巡礼をするのはアニメが好きな人ばかりだな」と思っているかもしれませんが、実際は場所と物語も重要です。広い解釈で、色々な物語がありますが、場所も一つの物語です。たとえば観光の想像(観光パンフレットの中の観光と場所の想像)と、実際の場所が一緒ではないことがあります。そのため観光の想像をして旅に出て、実際に現地で出会うものと経験が儀礼になることが魅力なのではないかと思います。

人吉市、熊本県にある田町菅原天満宮の本殿。「夏目友人帳」の聖地巡礼が行われている人吉市の巡礼地の一つ。

・研究と宣伝との関係性についてポッドキャスト活動

 私はNew Books Networkでポッドキャストのホストも務めていて、様々なテーマで、日本学の学者とのインタビューを行っています。ポッドキャストは、いわゆるパブリックスカーラシップ(大衆向けの学術活動)です。特に人文の研究はどんなトピックだとしても、人類、特に現代社会にとっての役割の一つになると思います。ただ、我々研究者は研究の内容を読むだけで気付くような書き方を残念ながらしていないので、一般向けにそのような内容を気付かせることが大事だと僕は思います。アメリカの宗教学会にはThe Immanent Frame(内在的な枠組)がありますが、若手の研究を取り入れて宗教の研究成果を一般向け雑誌の記事にしてみんなに知らせるという、とても簡単で分かりやすい形があります。それがパブリックスカーラシップであり、ポッドキャストの活動もその一環だと思います。

 たとえば、「こういう聖地巡礼があるよ」と言うのではなく、聖地巡礼でジェンダーや移民といった現代の社会問題を考えたり、それこそオタク研究の中ではいわゆる「他者性」の「他者」って一体何だという、とても基本的な人文知研究、あるいは人文知の知識があって、それらをみんなに少しずつ伝えたりしたい。やはり、「人文の知識はこれだよ」と言うよりは、批判的にそれを知らせるということが大事だと思います。科学とはちょっと違う形で皆さんとコミュニケートしていくというのがポッドキャストの活動です。

・国立歴史民俗博物館(歴博)の人文知コミュニケーターとして志願した経緯

 人文知コミュニケーターという仕事が存在していること自体は、仕事を探した時から分かっていて、面白そうだなと思っていました。実際には今回の公募中にもう少し調べようということで、昔の人文知コミュニケーターの方々のプロフィールやインタビューを拝読させていただいて、仕事の内容はなんとなく分かるような気がしました。

 このポストは非常に大事な役割だと個人的には思います。特に日本では人文のポストドクターのポストがほぼなく、最近では東大の東京カレッジぐらいしか思いつかないくらいです。非常勤講師から常勤の教員になるのはいいのですが、普通の形だと研究と教育、先程お話したパブリックスカーラシップのバランスが全然取れていません。非常勤講師をやっているとほとんど研究をすることができず、逆に言うと研究機関に所属すると研究がメインになり、教育とパブリックスカーラシップの時間が全然取れない。この人文知コミュニケーターのポストはバランス的に教育、自分の研究、パブリックスカーラシップをしてほしいという思いが感じられて、それは特に日本ではレアなケースで大事な仕組みだと僕は思います。

・歴博での活動と人文知コミュニケーターとしての今後の取り組み

『REKIHAKU』という歴博の刊行物の英訳監修が一つのメインの活動になります。所属部署は研究部になりますが、広報課との連携もあります。広報課とのミーティングや、たとえば展示模型の仕組みや計画、企画がある時に一緒に考えてどういう形が一番いいか、大衆向けに歴博のことが分かるような計画等に参加することになると思います。あとは海外のゲストが歴博に来た時の対応もあります。

 これまでに人文知コミュニケーターの方々は「くらしに人文知」に色々と記事を出されているかと思うのですけれど、機会があればポッドキャストで皆さんの研究を紹介するというのが僕のメインの目的です。あとは、とても分かりやすい形で「人文知研究って何なの?」というシリーズものが出来ればいいかと思います。人文知コミュニケーターはそれぞれのフィールドがバラバラで、資料メインの研究は僕や国立民族学博物館の工藤さくらさんのように現地メインの調査とも違います。それこそ総合地球環境学研究所の澤崎賢一さんのように全く異なる形の方法論を使って行う研究は人文だからこそある、ということを一般の人たちに知らせたい、広めたいという気持ちが僕にはあるので、そういった活動もできればいいのではないかと思います。

(聞き手:大場 豪 人間文化研究機構 人間文化研究創発センター研究員)

NURADI Raditya (ヌラディ ラディティヤ) さん

ヌラディ ラディティヤさん

国立歴史民俗博物館  特任助教

専門は現代日本宗教。特に宗教とポップカルチャーの関係性について研究。聖地巡礼という儀礼を事例に「場所」「モノ」と「物語」は如何なる形で結びついているのか、またはその結びつきにより生まれた「意味」は何かをエスノグラフィーを通して研究中。このような「巡礼」の現象から日本と世界はどういうふうに繋がっているのかを学際的に考察。 「宗教」という現代日本社会ではあまり馴染みのない言葉を、研究を通してその言葉の意味と認識を広げていく事が出来ればと考えている。

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