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鄭在貞氏が第7回日本研究国際賞を受賞  

No.128
2026.01.27

 このたび、第7回人間文化研究機構日本研究国際賞の受賞者を、ソウル市立大学名誉教授の鄭在貞(Chung Jae-jeong)氏に決定いたしました。

 鄭氏は、長きにわたり日韓関係史や近代日本史研究に実証的な観点から卓越した業績を残し、斯学の学術研究に大きな貢献をされてきました。また、その卓越した研究に基づいて、日本と韓国の間の歴史対話を試み、両国間の歴史認識の克服に努め、日韓歴史研究者のコミュニティにおいて相互信頼の構築にも多大な貢献をされてきました。さらに、ソウル市立大学において長きに渡り教鞭をとり、加えて東京大学、東北大学、北海道大学、国際日本文化研究センター等で客員教授を務めるなど、両国において日本研究の国際的発展に寄与する後進の育成を担ってこられました(選考委員会の近藤泰弘委員長がまとめられた「授賞業績・授賞理由」を御参照ください)。

 本機構では、2026年1月28日に上野の日本学士院にて授賞式と記念講演会を催させていただきます。鄭在貞先生と交流をさせていただけることは、私たちにとってこのうえない楽しみです。

 さて、本機構が一般財団法人クラレ財団の御協力を得て2019年に創設した日本研究国際賞も今回で7回目となりました。お陰をもちまして、国内外から優れた研究者を候補者としてご推薦いただき、受賞者の選考を滞りなく進めることができております。本賞の趣旨をご理解いただき、御協力くださっている皆様方に、まずは、御礼申し上げたいと思います。これまでの受賞者は、欧州でご活躍の男性の研究者が2名、北米でご活躍の男性の研究者が3名、北米でご活躍の女性研究者が1名でしたが、今回初めてアジアから受賞者を出すことができました。選考委員会では、ジェンダー、地域、等々、より多様な研究者を本賞の対象にしたいと考えております。さらなる候補者のご推薦を切にお願いする次第です。

(文責:人間文化研究機構理事 若尾政希)


授賞業績・授賞理由

 鄭在貞(チョン・ジェジョン)氏は、韓国を代表する日韓近現代史研究者であり、長年にわたって日韓両国の学術的・文化的交流の促進と相互理解の深化に尽力されてきた。特に、日本統治期の朝鮮半島における鉄道史を題材に、植民地支配における「収奪性」と「近代性」という相反する二面性を学術的に描き出した著書『帝国日本の植民地支配と韓国鉄道 1892~1945』(韓国語版1999年、三橋広夫訳・明石書店・2008年)は、植民地近代化論の持つ限界を実証的な観点から解き明かし、バランスの取れた歴史観を提示した画期的業績である。膨大な鉄道史資料を駆使したこの研究は、韓国の近代史研究に新たな段階を切り開き、日韓両国の研究者が共に議論する共通の基盤を築いた点で実に大きな意義のあるものであった。

 さらに、鄭氏は研究者としての枠を超え、日韓の歴史教育と歴史認識問題の改善にも大きな貢献を果たした。1982年の日本の教科書問題以来、氏は一貫して歴史教育を通じた両国関係の改善に取り組み、「日韓歴史共同研究委員会」では幹事・代表幹事として難題に正面から取り組んだ。時に国家的緊張が高まる中にあっても、氏は学問的中立性と冷静な判断を貫き、日韓両国の歴史家の対話の場を守り抜いた。また、日韓歴史研究者・教員による『日韓歴史共通教材 日韓交流の歴史 先史から現代まで』(歴史教育研究会(日本)・歴史教科書研究会(韓国)編・明石書店・2007年)の編集・執筆に発揮されたそのバランス感覚と誠実な姿勢は、多くの後進の模範となった。さらに、2009年から2012年にかけては韓国政府の東北アジア歴史財団理事長の重責を担い、中国を含む東アジアの歴史研究ネットワークの拡充と地域の平和的関係構築に尽力されたことも特筆すべきである。

 氏の数十冊にのぼる著作などの研究成果は韓国語・日本語のみならず、英語・ドイツ語など多くの言語で広く紹介され、国際的にも高い評価を得ている。さらに、ソウル市立大学や東京大学などでの教育活動を通じて、日韓双方の若手研究者を多数育成し、それにより学術を超えた持続的な人的交流の礎を築いた点も大きな業績である。

 鄭氏はまた、学問を実社会へ還元する実践者でもある。韓国に駐在する日本企業関係者への歴史講座などを通じ、現場での相互理解を促進し、歴史の現場に立つことの意義を説いた。こうした姿勢は、研究と実務の双方を架橋するものであり、単なる研究者を超えた「知の外交官」としての役割を果たされてきたと言える。

 本年2025年は日韓国交正常化60周年の節目の年である。この記念すべき年に、氏の半世紀にわたる献身的努力と学問的・社会的貢献を顕彰することは、両国の未来に向けた希望の象徴となるであろう。

 以上、鄭在貞氏は、学術・社会・教育の各分野において卓越した業績を挙げた研究者であり、選考委員会は氏を第7回受賞者として選定できたことを、ここに大きな喜びとともに報告するものである。


第7回人間文化研究機構日本研究国際賞授賞式及び記念講演のご案内


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