編集後記

 
 
国立民族学博物館教授
佐々木 史郎
 

 昨年末から今年にかけての冬は、「寒い冬」だったといえるだろう。暑いのが苦手で、寒いのならマイナス50度の世界まで経験している私にとっては、今度の冬は「快適」であったが、大陸からくる強力な寒波とそれがもたらす豪雪のために、寒い冬が災害となってしまった地域も少なくなかったようである。連日テレビで放映されていた、日本海側各地の背丈より高く降り積もった屋根の雪をおろすようすは、画面からもその大変さがひしひしと伝わってきた。

 ただ、その大変さというのは、積雪量が何メートル、そのときの気温がマイナス何度で何秒何メートルの風が吹いていたといった数字だけでは決して理解することはできない。例えば、感じられる寒さは、気温が風の強さだけで決まるものではなく、その人の体調や経験、さらにはその土地の大気の質や人びとの生活の仕方によって大きく異なる。マイナス30度でもそれほど寒く感じられない場合もある。また、気温マイナス15度えで風速10メートルといわれるより、耳がちぎれそうなくらい寒い、次第に感覚がなくなってきた(これは非常に危険)といった方が、凍傷対策には重要である。「歩く人文学」というのは、研究者が自分の足を使って「体験」をする、つまりフィールドワークをすることを前提とした学問である。体験を通じた研究であるから、主観的になってしまって、「科学」ではないといわれるかもしれない。しかし、研究対象を、それがおかれた場所や状況に合わせて的確に理解するには、まずそれを経験するのが最もてっとりばやい。本誌から、フィールドワークをする研究のおもしろさと大切さを理解していただければ幸いである。